何のための化粧品?
酒井さんは、大手化粧品会社で商品開発・営業の仕事をしてきた。しかし、「もっといい製品を送り出したい」と、十年前、十数人で“脱藩”し、「テイクジーン」というOEM(相手先ブランドによる生産)の会社を立ち上げた。
だが、周囲を見回してみれば「肌の障害」で悩んでいる人がたくさんいた。現在五歳の孫も、社員の女性も肌のアレルギーに悩んでいた。
「化粧品は、こういう人たちを救うためにあるはず」という思いが強くなった。
世の中の化粧品のほとんどは、「美しくありたい」という女性の願望を叶えるために製造・販売されている。
美しいモデルを使ったCMを大量にテレビに放映し、「美への憧れ」を煽り立てる。2兆円産業の化粧品業界だが、全産業の中で、費用の中の広告費比率が飛び抜けて高いのが特徴だ。
「化粧品の役割は違うところにあるのでは」という疑問が以前から拭えなかった。それが免疫粧研立ち上げへの動機になった。
本当に困っている人に届けたい
化粧品は通常、化粧品店やデパート、ドラッグストアで売られているが、mimihadaはそういう販路には乗せていない。
「売れないからと言って、棚から外すような商売には関わりたくない」と言う。現在は、口コミとアマゾンでの販売だ。
「大量に売れるものではない。必要としている人にしっかり届けたい」と「ゆいトレ」との連携を希望した。
三年ほど前から、沖縄の三線の演奏にはまっている酒井さん。
「三線には蛇の皮か貼ってある。1週間も演奏しないと硬くなって音が悪くなる。三年ほど毎日引くと、なじんでいい音になる」と話す。
単なる道具ではなく、生き物のように楽器に接する姿勢は、化粧品を困っている人に届けたいという気持ちにも通じている。
免疫粧研は、今年10月に、赤ちゃん向けの化粧品mamo-hadaを発売する予定だ。さらに2020年には高齢者向けの製品を出す準備を進めている。
これらの製品を扱うことで、従業員もやりがいを感じるようになったという。
「どういう形で社会に向き合って仕事をするか、それを次世代に伝えたい」
酒井さんの願いは、化粧品の世界での「天使の梯子(雲間から射す光)」のようにも見える。