砂川さんはもともと野菜農家だった。ゴーヤー、ピーマン、ジャガイモ、ニンジン、メロン、スイカ、さらに百合の栽培を手掛けていた。
そこに、義理の父がお土産で3本のマンゴーの苗木を持って帰ってきて、マンゴーを初めて口にしたとき「この世の中にこんなに美味しいものがあるのか」と驚いた。砂川さんはすっかりマンゴーに魅了されてしまった。
当時、砂川さんは40代後半。宮古島ではマンゴーを栽培する人はほとんどおらず、情報も経験もない中で、マンゴー農家への転身を図った。
「なんでかねえ? 今から考えると自分でも不思議さあ」と穏やかな笑顔を見せる砂川さん。
旧上野村でマンゴーの栽培に立ち上がったのは、砂川さんを含む7人の男たち。
今でこそマンゴーは言わずと知れた存在だが、当時は全く無名だった。上京し関東の有名百貨店でPRをする懸命な「7人の侍」の姿に打たれた関東在住の沖縄出身者たちはエイサーの演武でイベントを盛り上げ、総出でマンゴーをアピールした。
こうして数名の顧客との取引から始まり、送られた人がまた誰かに送り、伝えられ、そこから口コミで広がって、徐々に顧客が増えていった。
台風にもめげず、「今年も美味しかったよ~」という声を支えに
「マンゴーは難しいよ、とっても繊細だわけさ」と砂川さん。
過去には、大型台風の襲来により苦心して手掛けたマンゴーが落下し、目の前が真っ暗になり諦めかけたこともあった。それでも、お客様からの「今年も美味しかったよ~」という声を支えにやってきた。
「だからねえ、誤魔化せないんです。」
「誤魔化せない」とは、マンゴーに対してもそうであるし、顧客に対してもそうであるし、自分自身に対してもそうなのだろう。土づくりと日々の肥培管理がそのままマンゴーの味に出る。
宮古島マンゴーの草分け的な存在にも関わらず、その一言一言は謙虚で、丁寧なのが印象的な砂川さん 。20年以上、マンゴーに対しても、人に対しても、自分自身に対しても実直に向き合ってきた。
土づくりにこだわり、台風にもめげず、ただただ向き合い続けた日々の先にあるのが砂川農園のマンゴー。
「だからなのか」――砂川農園のマンゴーのピュアな味わい。これほど忘れられなくなるような、恋しくなるようなマンゴーの味わいはない。
豊潤な香りと、とろけるような甘さ
「ゆいトレ」で今回お届けするのは、アーウィン種のマンゴー。皮がリンゴのように光沢のある赤に染まるので通称「アップルマンゴー」と言われている。
マンゴーでは、宮崎県産も有名だが加温機(ボイラー)を使用するため沖縄産より早く収穫でき、知名度も高い。沖縄・宮古島のマンゴーは人工的な加温はせず、太陽の力だけで育つ。自然の恵みに満ちている分、それだけ
宮古島産の完熟マンゴーの豊潤な香りと、とろけるような甘さは、他とは比べ物にならない美味しさだ。
砂川さんのようなベテラン農家で、徹底した品質管理の中でも、わずかながらも出てしまう規格外のものを「家庭用マンゴー」としてお譲りいただいた。
家庭用マンゴーは、贈答用のものに比べると傷があったり大きさもバラバラで見栄えは劣るが、味の方は問題ない。家族で食べるからという方に人気で、毎年毎年リピーターが増え続けている人気の逸品だ。
丹精込めて育てたアップルマンゴーをご賞味いただきたい。
(取材記者・砂川葉子)