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物語ファイルNo.2 たつの市 株式会社ウサミ(寝具)


「一人ひとりに良質な眠りを届けたい」
寝具メーカーの新たな挑戦

美しい星雲のようなダウン(羽毛)

私(こたつ)は心底悩んでいた。

・・・寝付きはいいのに、決まって2~3時間で目が覚める。
・・・ぬるいお風呂に浸かったり、アルコールを控えたり、就寝前に牛乳をのんだり。快眠のためにいいと聞いたことはほとんど試したが、「中途覚醒」は改善しない。


もしかすると、そんな症状に悩む人はかなり多いのではないか?

そうした悩みに応えようと、奮闘している寝具のメーカーがある。

こだわりは「手引き真綿」

兵庫県たつの市は、「醤油の町」「そうめんの町」として知られる。

市の中心部を南北に流れる揖保川の西岸は「播磨の小京都」と呼ばれる昭和レトロの懐かしい旧市街がある。大きな醤油工場や文化施設が並ぶ対岸の新市街に、そのメーカー、株式会社ウサミがある。

 

同社の創業は30年前。生糸の一大産地・愛知県生まれの宇佐見仁紀(ひさのり)さんが、なんの縁もなかった龍野で、現在の工場を買い取り創業した。

仁紀さんは、自宅に「お蚕様」を育てる蚕小屋があるという環境で育った。地元の寝具メーカーに勤務した後、幼少から親しんだ「まゆの力を活かした、より良質の眠りを提供したい」と独立して龍野に来たのだ。

仁紀さんがこだわったのは、絹を職人の手で引き延ばして「わた」にした「手引き真綿」による布団づくり。真綿は、軽くて保湿性に優れ、しなやかで身体にフィットし、吸湿性や利便性に優れた素材。ただし、職人が手間暇かけて丁寧に手引きするので、熟練した名人でも一日わずか数枚分しか作ることができない。

昔は各地で多くの職人が活躍していたが、今では限られた人たちに受け継がれている伝統技だ。仁紀さんはとくに「手引き真綿」の品質に惚れ込んでいる。

 

穏やかながら良質の寝具に注ぐ情熱が熱い仁紀さん

ウサミでは、長年の使用で湿気を吸って、弾力性を失った布団を、一度解体しわたをほぐしながらゴミや塵などを取り除いて、新品のようにふっくらと蘇らせ、必要であれば真綿を追加し、新しい側生地に包み直してリフォームしている。いつからか布団は、買い換えるものという風潮に変化してしまったが、品質のよい布団はいまでも一生ものなのである。

 

仁紀さんは、知識も技術も大変優れていたことから、大手寝具メーカーからの高級布団の受注生産を柱に、少しずつ事業を拡大してきた。しかし、近年、安い海外製品の台頭や不景気の影響、流通システムの変化などで、品質の高い高級製品のシェアが大幅に縮小して、その後は業界全体でながく低迷が続いている。

メーカーからの受注品だけではなかなか安定した利益を出しにくく、「こんな仕事は子どもに継げとはいえないよ」とつぶやく仁紀さんに、娘の紀子さんが発破をかける。

 

ユーザーの悩みに対応するオーダーメイドの寝具づくりが目標

娘の紀子さんは、たつの市にある寝装具製造会社に勤務し、「快眠と寝具」の関係について長年研究をしていた。

中途覚醒に悩んでいた私は、SNSで紀子さんと知り合い、悩みと経過を説明した。すると「(そこまでして改善しないなら)自分にあった枕に変えるとよくなるかも」と助言をくれた。製造工程などに興味もあったので、会社見学がてら詳しく相談に乗ってもらうことにした。

 

紀子さんは研究者の視点でアドバイスをくれる

ウサミの工場に一歩足を踏み入れると、見たことのない巨大な装置がずらりと並んでいる。布団の素材になる綿の固まりをほぐしながら製造工程に送り込む機械だ。

材料倉庫には、さまざまな種類の合成繊維から、伝統技の近江手引き真綿まで、多様な素材が詰まった大きな袋が並べられていて、製造オーダーにあった素材が機械に入れられていく。ここから先の工程は、熟練した職工さんによるほぼ完全な手作業だ。

綿を成形し、布団にセットし、均等に入れ込んでから縁縫いをする。工員のみなさんは、手際よろしく布団づくりの作業をこなしていた。

丁寧に手作りされる布団
職人技の工程が続く

この日も縫製機の上で回っていたのは、有名な寝具メーカーのマットレス。一品一品、熟練工の優れた技術で手づくりし、時間をかけて丁寧に検品する。コストがかかる労働集約型の仕事だが、機械化では実現できないクオリティを守ることができるという。

一日の1/3を過ごす布団づくりだから「人の手で感じとることができる微妙な感覚が大切」なのだ。

 

町工場規模では大量生産はできない。少量多品種で勝負に出るしかないが、付加価値の低い製品は価格競争に巻き込まれる。

ならば、優れた技術とノウハウ、特に手作業だから実現できる特長を活かして、ユーザーの悩みや要望を聞き取り、ひとりひとりオーダーメイドの寝具づくりをすることで勝負できないか・・・紀子さんがイメージする事業コンセプトだ。

ずっとその背中を見て育った、父が起業した理想を実現するのが、自分の使命であると紀子さんは考える。「大きなことは言わないけど、ネットが生産者と利用者の架け橋になってくれると嬉しい」。

 

信頼できる「布団職人」をアドバイザーに持つ大切さ:良質な眠りの毎日のために

職人の手作業が持つ可能性とネットの活用についていろいろと考えながら、いよいよ話題は「中途覚醒」の相談へと進んだ。最近は快眠を求めてさまざまな枕が発売されている。どの製品が自分にあっているかを見分ける上でのポイントは、「形状」「構造」「素材」の大きく3つだ。形状や構造も重要だが、素材を見分けて自分好みの枕を選べると快眠もそう遠くないという。

 

一般的に「羽毛」として販売されている素材には、フェザーとダウンの2種類がある。

フェザーは羽根の部分で、湾曲した羽軸があり弾力性に富む。水鳥の胸毛を使ったダウンは、タンポポの綿毛のようにふわふわと芯がない。

ダウンは1羽から5~10gしか採れないのでフェザーの百倍以上高く、その毛足が長ければ長いほど高価だ。吸湿発散性に優れ、軽くてやわらかくしなやかなダウンは、科学技術の進んだいまでもなお、合繊では再現できない。

この羽毛の混合比率が、安らかな眠りを誘う重要な要素となる。

 

ダウンとフェザーについて勉強

布団はもちろんだが、枕のことも知らないことばかりだった。

すがるような思いで相談したが、信頼出来る友人がプロとして語ってくれるアドバイスは、とてもありがたかった。

さっそく、ダウンをブレンドした特別注文の枕を作ってもらい3週間になるが、明らかに睡眠の質が向上した。自分だけのこの枕を、これからもずっと大切に使い続けていきたい。

 

紀子さんが私のために作ってくれた枕!

【さらに3か月後追記】
しっくりくる高さに自分で調整しながら毎日一緒に眠っている枕。包み込んでくれるようなこれを、もう手放すことはできない。睡眠時間は、だんだん伸びてきて、今では5~6時間眠れるようになった。
10年以上も不眠に悩まされてきたのに!?


(取材記者:こたつ)

                             


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