コーヒー焙煎の窯(かま)の横で、温度計を見ながらストップウォッチをにらむ福元博通さん(65)。
「窯の温度が1度下がるのに20数秒が理想なんです」と、バーナーを調節しながら、根気よく計測を繰り返す。温度計は75度から78度の間を行ったり来たり。これが「保有熱」の調整だ。
4~5回やって、そのレベルに達すると、窯の温度を150度まで上げて、コーヒー豆を投入。いったん130度まで下げた後、200度近くまでゆっくり上げていく。
何度も豆の一部を取り出し、状態を確認する。
「初めの6分が勝負。これで成否が分かれる」と真剣そのもの。 豆は初めはふやけていき。温度が上がると収縮し、そこから本格焙煎になる。
・・・16分半。
焙煎された豆をかじって、「70点」と自己採点。
「100点の豆は噛んだときに、中まで熱が通り、パリッという音がする。今日のは少し芯が残っている」と不満げだ。
喫茶店を始めて34年。自家焙煎にこだわる福元さんは、多い日には8~9回、焙煎機の前に立つ。もう6~7万回もやったことになる。
7、8年前に、「低温焙煎」という独自の技法を確立したが、「もっといい方法があるはず」と、専用の紙にデータを書き込みながら研究を怠らない。
コーヒーとの出会いは、大学卒業後、料理人を目指して勤めたレストランで、喫茶部門を任されたことから。「おいしいコーヒーとは何か」を追求し、はまってしまった。
1982年に東大阪の近畿大学近くの学生街に喫茶店を開き、89年に現在の場所に移転した。目の前がスーパーだったので、客の回転はよかったが、2003年にスーパーが撤退し、客は激減した。
2001年9月11日、ニューヨークでテロがあったまさにその日に、ホームページを立ち上げ、焙煎した豆のネット通販を始めた。倍々ゲームで売り上げが伸び、今は、売り上げの8割が通販だ。
「ネット通販がなかったら店はつぶれていた」と福元さん。15年間で、顧客リストは6000人を超えた。
福元さんは、「珈琲の焙煎とは一言で言えば 『火力の魔術で創り出す味の芸術』ではないかと思っています」という。
世界最大のコーヒーショップチェーンをはじめ、世の中の大勢は、一気に230度ぐらいまで温度を上げる高温焙煎。福元さんは「高くても210度」。大勢とは正反対。
手本にしたのは「日本茶」。低温でお茶の葉の持つ旨味をじっくり引き出すやり方だ。
『完熟したまろやかな美味しさ』が福元さんの理想だ。
「同業の人と話して『保有熱』を説明しても、まったく理解してもらえません。でも、私はここが核心だと信じています」
最初に70度台で窯の温度を調整する「保有熱」を見つけたのは8年ほど前。これには室温が20~30度の状態を保つことが重要で、夏は冷房、冬は暖房で室温を調整する。この「保有熱」の調整で焙煎の品質が安定した。
「でも、もっといい方法があるかもしれない。だからまだまだ奥を極めたい」という。
「豆の芯からしっかりと煎られていて、豆の成分(味)がバランスよくシッカリと引き出されている珈琲豆」・・・究極の目標だ。
私たちは、コーヒーをドリップするとき、少量のお湯を注いで蒸らし、30秒ほどして、ざっとお湯を入れる。
福元さんは、はじめにざっと半分のお湯を注ぎ、しばらくして残りを2回ほど注ぎ足す。
最初にタップリと湯を注いで1回目で泡を十分に膨らませた時(豆を十分に膨張させた時)は、フワーとした伸びのある味になります」という。
ネット通販で、お客から苦情を言われたこともある。「人によって好みが違うので、すべてにベストはありえない。技量不足だと反省し、さらに勉強しているんです」と姿勢はいつも謙虚だ。
「豆本来のおいしさ全部を、飲む人に味わってほしい」 ・・・福元さんの挑戦に終わりはない。
(取材記者:坪田 知己)
福元さんセレクトのスペシャルティコーヒーを、ゆいトレ特別価格でお届けします。もちろんこだわりの「低温焙煎」。豆のまま、と、挽いたものをご用意しました。 ほっと一息つきたいときも、さあこれから頑張るぞ!というときも、ありがとうやお疲れさまの気持ちを伝えたいときも、一杯のフクモト珈琲をどうぞ。
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